
母親は気違いのようになって、『与蔵やーい、与蔵やーい』と叫んだ。すると、今まで静かに月光に輝いていた沼の水面が急にざわめいて、大きな渦がもり上がったと思うと、そのなかから、にゅと鎌首をもちあげた1匹の白い大蛇が、真っ赤な口を開けて『おーい』と返事をした。
与蔵はあまりに喉がかわいたので、谷をせきとめて沼をつくり、そこにはいり水を飲んでいるうちに、大蛇の姿に変わってしまったのである。
大蛇は1回姿を現しただけで、いくらよんでも二度と現れなかった。母親は泣く泣く村に帰ってきた。
そこからこの沼を与蔵沼、峠を与蔵峠と呼ぶようになったという。それからのち、この峠を通る人はときどき白い大蛇が沼で遊んでいるのをみかけるという。
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